「戦禍の中で生きる人々、そこに希望はあるか?」国境なき医師団で活動をされたあるドクターの答えとは

先日、八重山病院の市民講座が開講され、国境なき医師団で活動をされた滝上隆一Dr.による活動報告がありました。

タイトルは「戦禍の中で生きる人々、そこに希望はあるか」

その答えが聴きたくて、講演会に参加してきました。

国境なき医師団とは

国境なき医師団(Médecins Sans Frontières=MSF)は、 1971年に設立された、独立・中立・公平な立場で医療・人道援助活動を行う民間・非営利の国際団体。
MSFの活動は、緊急性の高い医療ニーズに応えることを目的としていて、紛争や自然災害の被害者や、貧困などさまざまな理由で保健医療サービスを受けられない人びとなど、その対象は多岐にわたる(出典:国境なき医師団日本HP)

国境なき医師団日本HP

また、国境なき医師団には憲章があり次の4つの理念の下に活動をしています。

・ 国境なき医師団は苦境にある人びと、天災、人災、武力紛争の被災者に対し人種、宗教、信条、政治的な関わりを超えて差別することなく援助を提供する。

 

・ 国境なき医師団は普遍的な「医の倫理」と人道援助の名の下に、中立性と不偏性を遵守し完全かつ妨げられることのない自由をもって任務を遂行する。

 

・国境なき医師団のボランティアはその職業倫理を尊び、すべての政治的、経済的、宗教的権力から完全な独立性を保つ。

 

・国境なき医師団のボランティアはその任務の危険を認識し国境なき医師団が提供できる以外には自らに対していかなる補償も求めない。

この憲章にあるように、国境なき医師団は政治や宗教を超えあくまで「中立的」な立場として活動しているとのこと。
なので、特に何処かの地域や国から支援を受けているわけでもなければ、国連が国境なき医師団の活動を守ってくれるわけでもない「独立した存在」として、それぞれのミッションを遂行しているようです。
「誰も守ってくれない」ことへの不安はないか訊ねましたが、
むしろ、国連と行動を共にすることで標的にされることもあるそうで、最近は広く認識されている「国境なき医師団」として活動する方がまだ安全だと話されていました。
とはいえ、危険な環境に身を置くことに変わりはありません。
それでも彼らが危険を顧みず、ミッションを遂行していく原動力は何なのでしょうか。

講演の内容

講演の内容は主に

・国境なき医師団について

・国境なき医師団の活動内容について

・国境なき医師団のスタッフについて

・滝上Dr.の活動(イエメンとモスル)

・ミッションが決まってから現地へ辿り着くまでの道のり

・現地での活動_主に外科医として行ってきた医療活動

というような項目に沿って話が進められていきました。

国境なき医師団のスタッフ

私が興味を持ったのが、国境なき医師団のスタッフについて。

国境なき医師団には、107人のスタッフがいて、
医師・看護師の他にも、薬剤師、技師、カウンセラー等々いろんな医療職がいます。

それだけでなく、ロジ(物資調達をする人)、アドミニストレーター(ミッション遂行に当たっての全体的な調整役、プロジェクトマネージャー)といった役割もあるようです。
そして、ロジやアドを担う人達は必ずしも医療職ではなく、民間会社で働いている人達だったりと、様々な職種の人達で成り立っているのが国境なき医師団のスタッフでした。

なかには20回以上のミッションをこなすスタッフも

現地ミッションでは、世界各地からスタッフが集まります。
なかにはこれまで多くの経験を積んでこられたスタッフもいるとのこと。
写真で紹介された70代半ばの女性は、手術室のナースでこれまでに20回以上ものミッションをこなしてきたとのことでした。
手術室といえば昼夜問わず動いしている場所。そんな環境で70代を超えてもなお従事する女性、並大抵の気持ちではできません。まさに、「己の使命」として活動されているんだと思います。頭の下がる思いです。

求められるスキルはジェネラルサージョン

講演された滝上Dr.は外科医(Surgeon)なのですが、
現地で外科医は概ね2人、ミッションで赴いた医師団スタッフと現地スタッフ。

もともと、スタッフの半数は現地の人が担っているそうです。それは、現地のことをよく知っているということもあるでしょうが、「いずれは医師団は去るべきもの」という思想によるものだそうです。最終的に、自立・自助ができるようになるためには、ミッションがスタートするときから、現地スタッフに入ってもらう必要があります。

そういうわけで、相当な数の外傷患者がいる現場においても、外科医は二人。そして、医師団スタッフは概ね現地スタッフを指導する立場なわけですから、ほぼ一人で決断し、外科的治療を進めていかねばなりません。

今の世の中は医療は「専門医制度」が主流、分野を狭めより専門性に特化することが良しとされています。
しかし、ミッションの現場では、通常の外科的手術全般のみならず、「整形外科」や「産科(帝王切開)」まで幅広く診ていかなければなりません。
まさにスペシャルサージョン(Special Surgeon)ではなく、ジェネラルサージョ(General Surgeon)が求められているのです。

日本の医療機関とは全く違う環境で

もちろん、通常の医療設備は整っていません。
唯一あったかなり古いCTはミッション中1度しか使われなかったとのこと。
・・・古いてのもあるけど、そもそも(古くて時間のかかる)CTを撮る余裕のない患者さんばかりということでした。
最低限の医療材料と、整える余裕もない手術室。日本では当たり前のようにホッチギス(のようなもの)で縫い合わせる場面でも、自身の手技で縫っていかなければならないとのこと。そして麻酔を打つ側から手術が始まるような壮絶な環境。全ては己の手技に頼るしかない状況。
日本の医療現場からはかけ離れた世界がそこにはあるのだなと改めて認識しました。

被害を受けるのはお年寄りや子どもといった弱者。

講演会では沢山の傷を負った人々の写真が出てきました。
正直、目を覆いたくなるような写真の数々。
そして、見ていると子どもの写真が多い印象を受けました。
これは気のせいでもなければ、敢えて子どもの写真ばかり集めたわけでもなく、やっぱり被害者は子どもやお年寄りといった弱者であることが多いとのこと。

例えば、空襲にあってもお年寄りは走れません。
地雷を踏んでしまうのはまだ注意深く行動できない子どもが多いんです。

どの時代も何処でも、被害を被るのは弱い立場の人々なのです。

トリアージをしなければならない苦悩

講演のなかで、特に辛そうに話されていたこと。

常にトリアージしながら治療をしていかなければならない

ということ。

トリアージ(仏: triage)とは、患者の重症度に基づいて、治療の優先度を決定して選別を行うこと。これはより多くの人々を救うために必要不可欠な手段です。

でも、実際にトリアージを実行していくのはとても辛いことだと思います。そこに「助けたい」という要素は入り込めないのです。目の前でちいさな子が苦しんでいても、その子が重篤で助かる見込みが低ければ、より助かる見込みが高い人から治療を行っていかねばなりません。

戦禍の中で生きる人々、そこに希望はあるか

90分の予定が、結局120分に及ぶ報告と質疑応答で講演会は終了しました。

内容としては、確かに「良かった、うまくいった」というものもあるし、心温まるエピソードも合ったけれど、やっぱり強烈な写真と症例の数々に圧倒されました。話を聞いていても押し倒されえしまいそうな環境のなか、決められた期間、ミッションをやり遂げてきた滝上Dr.には本当に頭の下がる思いです。

講演のタイトルにもなっている冒頭の投げかけに対し、最期に先生なりの答えを語ってくださいました。

私達の生きている世界とはかけ離れた環境にいるけれど、その中にあるからこそ感じられる優しさや幸せがあって。
そこに希望を見いだせるから、活動を続けていけることができるのだ。

と。

被災地で医療施設をオープンにしていると、薬品類が持っていかれたりしないかという問もありましたが、そこではそういったことは起こらないとのことでした。自分も苦しいけれど、みんなも苦しくて、そういう時はみんなに対して優しくなることができる人達なのだと。

宗教の思想もあるかもしれませんが、どんな環境にあっても、そこから幸せを見出すことは可能なんだと知りました。そして、優しさを持つことも。
物質的に豊かだから幸せとは限りません。返って不幸になる人だっています。
一方で、被災地にいる人々が苦しい思いをしていることを否定する余地はありませんが、でもそこには失望しかないというわけではなく、一筋の希望を必ず見い出せるものなんだと思います。それが人間なんだと。

最期に

講演会の後も少し先生からお話を聞く機会がありましたが、先生にとっては医者という職業そのものが、ご自身の「生きている充実感」そして幸福感に繋がるものなんだろうなと感じました。
そして、(大学を入り直してまで)医師という職業を選ぶきっかけとなった「国境なき医師団」の活動に強い使命感、ほとんど天命のようなものを感じて活動されているのだな、と。

講演を聞いた後でも、先生のように、自分の命を危険にさらしてまでミッションに赴く勇気は、私にはありません。
でも、少しでも役に立てたらなと思い、毎月の寄付をすることにしました。
額はすくなくても、できることをやることで私にとっても小さな充足感が得られます。
なによりそんな小さな積み重ねが「国境なき医師団」の活動を支え、被災地の人々の役に立ているのなら、私にとって大きな救いにもなります。

この記事を読まれたみなさんも、是非、「国境なき医師団」の活動に興味を持っていただき、小さな善意を積み重ねていただけたら嬉しいです。

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